終わりなき旅…というわけにはいきませんー会社法のTips(事業年度の期間)ー

本日のテーマ

「1年に1回、計算書類を作成し定時株主総会を開くのは面倒だから、わが社は事業年度を2年にしよう」
ということが会社法上許されるのか?

というのが本日のテーマです。

すなわち、会社法上、事業年度の期間には制限があるか、あるとしてその期間の長さはという話です。

(別に2年でなくても、100年でも1000年でも問題設定としてはOKです。会社経営は終わりなき旅だから、事業年度など設けるのはやめよう、という発想もあるかもしれません。)

感覚→条文(権威のある文献・辞典)

「事業年度は普通1年なんだから、上限は1年なんじゃないの?あたり前なことを聞くな」
というツッコミはほぼ正解です。

ただし、感覚で実務をやっていると思わぬ落とし穴があるもので、極力、法律の条文に立ち戻るという姿勢は重要です。

ということで、条文に立ち戻りましょう。

と言っても、会社法において定義を列挙している2条を眺めても、「最終事業年度」の定義はありますが(会社法2条24号)、「事業年度」の定義はありません。

法令に定義がない法令用語については、『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』に記載があることが多く、『法令用語辞典』を引いてみることにします。

すると、「事業年度」については、「会社…その他一定の事業を行うものは、その事業の経理について一定期間ごとに区分し、その期間中における事業の成績、経理の状況等を明らかにするのを通例とする。この事業の経理上区分される一定期間を『事業年度』と通称する」( 『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』 344頁)とあり、感覚と概ね合致した定義になっていることが分かります。

「事業年度」の定義は明らかになりました。

では、会社法上、事業年度は会社が好き勝手、定めることができるのかというと、そんなことはなく、法律ではなく、会社計算規則を眺める必要があります。

会社計算規則は以下のように定め、事業年度は原則として1年である旨を定めています(会社計算規則59条2項)。

各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間は、当該事業年度の前事業年度の末日の翌日(当該事業年度の前事業年度がない場合にあっては、成立の日)から当該事業年度の末日までの期間とする。この場合において、当該期間は、一年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、一年六箇月)を超えることができない。

「原則として」と留保をつけたのは、例外として、事業年度の末日を変更する場合には、1年6箇月が上限となる旨が同項の括弧書で定められているためです。

なぜこのような例外が設けられているかというと、例えば3月31日を事業年度の末日としていた場合に、事業年度の末日を変更して6月30日を事業年度の末日とすることを考えたときに、この規定がないと、2021年4月1日から始まる事業年度について、2021年6月30日に一旦計算期間を閉じて、計算書類等を作成する必要が生じるためです。

これでは実務上煩雑だということで、事業年度の末日を変更する場合には、1年6箇月を上限とすることで、実務上の負担を軽減しているわけです(例外の説明については、弥永真生著『コンメンタール 会社計算規則・商法施行規則[第3版]』328頁以下参照)。

(このように、会社法は、会社経営は終わりなき旅であるという情熱を正面からは受け止めてはくれないのです。長旅には休息、持ち物や体調のチェックが必要ですので、その機会だと思うしかないようです。)

テーマに対する答えと小話

以上から、冒頭の質問に対しては、会社法上は、事業年度は原則として1年のため、事業年度を2年にすることはできない、というのが答えとなります。

(ちなみに、会社法に限らず、法律は規定の上で原則・例外が定められることが多く、何かを断言できる場面は多くありません。「原則として」という留保が付くことが多いのです。また、文言にも解釈の余地があり、考え方が分かれていたりもします。そのため、TPO次第ですが、法律を語る際に断言がやたらと多い人に出くわしたときは、法律専門家としての適性を少し疑った方がいいかもしれません。)

補足

本日のテーマが「 1年に1回に計算書類を作成し、確定申告をするのは面倒だから、わが社は事業年度を2年にしよう」 というものだったら、どう答えたらよいでしょうか。

これについても、やはり条文にあたることになります(そんなもん1年に決まってるだろ、というのは概ね正しいですが、法律家に限らず、ビジネスパーソンにとって裏どりは大切です。)。

会社は様々な税金を払う必要がありますが、その基本となる法人税について規定している法人税法を見るのが良さそうです。

条文をめくっていくと13条あたりに「事業年度の意義」というタイトルの条文があるので、こちらは規則や辞典にあたるまでもなく解決しそうです。

あとは、本日の締めとして、実際に条文を眺めてみてください。

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