日経において、外国公務員に対する賄賂の提供が日本法のみならず、米国の法律(海外腐敗行為防止法(FCPA))にも触れることになり得ることを指摘した記事が掲載されました。
昨今は中小企業の海外進出も盛んに行われており、本記事の指摘は中小企業にとっても無縁なものではないものと思われます。
外国公務員に対する賄賂の問題については、経済産業省が実務上有益な情報を提供しています。
damezouwaiponchie20210512.pdf (meti.go.jp) (規制の概要資料)
zouwai_shishin_tebiki20210512.pdf (meti.go.jp) (外国公務員贈賄防止指針をわかりやすく解説した手引き)
明らかな賄賂はさておき、記事でも指摘されている「ファシリテーション・ペイメント」に関する経済産業省のスタンスは理解しておくべきかと思います。
ファシリテーション・ペイメント (スモール・ファシリテーション・ペイメント)とは、「通常の行政サービスに係る手続の円滑化のための少額の支払い」のことを指し(経済産業省「外国公務員贈賄防止指針」13頁注38)、同指針は以下のように述べています。
「我が国の不正競争防止法においては、明示的にスモール・ファシリテーション・ペイメント(SFP)に関する除外規定を置いていないことから、外国公務員等への金銭その他の利益の供与は、例え少額であっても、「営業上の不正の利益を得る」目的を有する場合には不正競争防止法違反になる。したがって、いわゆる SFP であるということのみを理由としては処罰を免れることはできない。」
「外国公務員贈賄防止指針」27頁(ハイライト筆者)
すなわち、日本法上は、スモール・ファシリテーション・ペイメントであることをもって、処罰に対象にならないわけではなく、あくまで、外国公務員への利益の供与が「営業上の不正の利益を得る」目的であったかどうかで判断されるという点に留意が必要となります。
また、「合理性のない差別的な不利益な取扱いを受けた場合、例えば、通関等の手続において、事業者が現地法令上必要な手続を行っているにもかかわらず、事実上、金銭や物品を提供しない限り、現地政府から手続の遅延その他合理性のない差別的な不利益な取扱いを受けるケース」における金銭の支払いについて、「差別的な不利益を回避することを目的とするものであっても、そのような支払自体が『営業上の不正の利益を得るため』の利益提供に該当し得るものであるうえ、金銭等を外国公務員等に一度支払うと、それが慣行化し継続する可能性が高いことから、金銭等の要求を拒絶することが原則」であると指摘している点にも留意が必要です(同指針27頁から28頁)。
外国公務員から合理的な理由のない差別的な取扱いや不利益な取扱いを受けていたとしても、外国公務員に対する金銭供与は外国公務員に対する贈賄にはあたり、処罰の対象となり得るということです。
平たく言うと、「不合理な取扱いを解消するために少額の支払いをするのは問題ないだろう」という考えは、通用しないということです(ビジネス上の必要性があることは理解し得るところではありますが、マスコミに取りざたされるような規模の大きな不正も、規模の小さな違法行為がその入り口となることが少なくありません。また、違法行為はその後の企業活動に大きな影を落とし、最悪の事態を招きかねません。これらのことは、過去の幾多の企業不正からも明らかかと思います。)。
このようなケースでは、「自社単独で又は現地日本大使館・領事館や現地商工会議所等を経由
して拒絶の意思を明らかにすることが望ましい。」ともされています(同指針28頁)。
実務担当者において、外国公務員への金銭提供に関して、外国でのビジネスを円滑に進めるための必要悪だと捉えて経営陣に無断で実行してしまうことのないよう、社内規程での明記や役職員の教育の徹底が求められます。