中小企業の経営者とお話をしていると、採用に苦慮する声をお聞きすることがある。
「なかなか応募者が集まらない」
「苦労して人を雇っても、仕事があわずやめてしまう」
というのがその代表だ。
そこで、今回は、企業の採用活動のアウトラインをテーマとしてみたい。
採用活動のフロー
企業の採用活動は、大きく、募集→選抜、というフローに分けることができる。
募集は、応募者を集める段階で、選抜は、集まった応募者の中から同じメンバーとして働いて欲しいと思う人材を選ぶ段階だ。
採用=「マッチング」
採用とは、平たくいうと、職を求める人(求職者)と企業とのマッチングである。
マッチングの具体的な内容としては、「期待のマッチング」と「能力のマッチング」と整理される。
「期待のマッチング」とは、求職者が企業に対して求めるものと、当該企業が提供できる仕事、報酬、やりがいなどがマッチングするか、という視点である。
「能力のマッチング」とは、企業が求職者に対して求める能力と、求職者が有する能力がマッチングするか、という視点である。
これに加えて、採用の現場では、「フィーリングのマッチング」も、採用するしないに影響を与えている。「フィーリングのマッチング」とは、求職者からすれば、この企業で働いてみたい、という感覚で、企業からすれば、この人に仕事を任せたい・一緒に働いてみたい、という感覚である。
採用の「マッチング」という側面からすると、採用活動の目標は、
採用後にミスマッチを起こさないように、応募者を集めて、その中からメンバーを選抜すること
となる。
採用の悩みの問題の所在と対応
冒頭の、
「なかなか応募者が集まらない」
との悩みは、
採用活動のうち「募集」に関する問題である。
中小企業の場合は、大企業と違って応募者の確保に苦慮することも多い。
この問題については、各種求人募集のサービスを利用するといった当たり前の対策を取らざる得ない。
その際のポイントは、中小企業を求職の対象としている求職者に対して、刺さる情報を提示できているか、である(求職者が欲しい情報が提供できているか、ということである)。
一方、
「苦労して人を雇っても、仕事があわずやめてしまう」
との悩みは、
採用活動のうち主に「選抜」に関する問題である。
この問題は、往々にして、面談等での短期的な「フィーリングのマッチング」の重視した結果、「期待のマッチング」「能力のマッチング」の点で難があった、ということから起こる。
「期待のマッチング」については、面談等で、企業が提供できる仕事、報酬、やりがい等を正しく伝える必要がある。
中小企業の場合、応募者に限りがあるため、提供できる仕事、報酬、やりがい等の情報を少し「盛って」伝えてしまう、マイナスな情報を伝えないというインセンティブが働きやすい(目の前の応募者を採用したい、というニーズが高いということでもある。)。
しかしながら、「期待のマッチング」という観点からミスマッチが起こると、多大なコストを割いて採用し、コストをかけて育てた人材が早期に転職してしまうなど、長期的には企業にとって大きな痛手となる。
「能力のマッチング」、中長期的な「フィーリングのマッチング」という観点からミスマッチを起こさないようにするためには、求職者の能力・人となりの見極めと企業としての採用基準の明確化が必要となる。
ここでは特に後者について触れる。
何かを判断するにあたっては、その判断にあたっての基準(判断基準)を明確にする必要がある。
判断基準が明確でないと、その時その時の判断権者のフィーリングや気分で、判断がなされてしまう(つまり、これを採用の場で考えると、採用担当者がプライベートでいい気分になっているときは、甘い選抜をしてしまい、その反対に、虫の居所が悪いと、必要以上に厳しい選抜をしてしまうことになりかねないわけである。)。
採用における判断基準をどのように設定するのかは、各企業の個性がでるところであり、一概にはいえない。
重要なのは、企業理念・パーパス・価値観等、当該企業が普段の意思決定で用いている物差しからブレークダウンしたものにする、ということである。
採用活動も、企業の意思決定に変わりなく、採用担当者の(特に短期的な)フィーリングでその意思決定がなされないように、企業として判断基準を明確にする必要がある。
以上のとおり、採用活動が「マッチング」であること、企業の意思決定の一つであることを明確に意識して、採用活動の戦略を練る必要がある。