本稿では、会社法の特に第5章計算等に関連する論点を検討する際には、会計サイドからの検討(会計に関する実務書を参照すること)が欠かせないことに言及したいと思います。
今日は、SNSでも少し話題に挙がっていた、株式会社タカキューの2021年7月15日付けの以下の適時開示についてです。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/8166/tdnet/2001526/00.pdf
これは、定時株主総会で決議した剰余金の処分に関する議案、具体的には、その他資本剰余金を繰越利益剰余金に振り替える内容の決議は効力を生じないことを公表したものです。
論点の詳細については、川井信之弁護士の以下のブログが詳しいので、そちらに委ねます。
本論点は、資本剰余金の利益剰余金への振替が認められるケースはいかなる場合か(その他利益剰余金が負の残高であれば、資本剰余金による振替が可能か、それとも、利益剰余金が負の残高である場合に限って振替が可能か)というものなのですが、会社法の基本書・実務書だけを見ていると明確な記述は見つけにくく、川井弁護士も以下のように指摘しています。
「こうしたことは、上記の企業会計基準の61項には「明確には」書かれていませんし、会社法の解説書にもここまで明確に書かれているものは(私の見た限りでは、ですが)ありません(前述の「会社法の計算詳解」にも「明確な」記載はありません)ので、勘違いしやすいところなのではないか」
ただし、以下でも指摘させて頂いたとおり、本論点については、会計業界の代表的な実務書に明示的な言及がなされているところです。
このように、会社法の第5章 計算等 を検討する際には、会計基準、会計に関する実務書を紐解くことが有益です。
このことは会社法の条文からもわかります。
というのも、会社法第431条は以下のように規定して、株式会社の計算について、会計基準に従うこと、会計基準の検討が必要となることを規定しているからです。
株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。
以上のとおり、会社法の特に第5章計算等に関連する論点を検討する際には、会計サイドからの検討(会計に関する実務書を参照すること)を欠かすことができず、(時間的・調査資源の制約や委任業務の範囲に照らすと)弁護士としては回答の際に「この点については、公認会計士の見解も確認されたい。」といった留保をつける必要がある場合もあるかと思います。