事例1
普通株式しか発行していない会社(非公開会社・取締役会非設置会社)が、配当と残余財産分配で優先する種類株式(A種種類株式)を発行(第三者割当て)するために必要な手続きを整理してください。
※略語 法:会社法
株式会社が種類株式を発行する場合、種類株式の内容と発行可能種類株式総数を定款で定める必要があります(法108条2項)。
定款変更手続には、株主総会の特別決議が必要です(法466条、309条2項11号)。
事例1では、まず、株主総会の特別決議により、A種優先株式の内容及び発行可能種類株式総数を定めることになります。
非公開会社が株式を発行する場合、募集事項の決定につき、株主総会の特別決議が必要となります(法199条2項、309条2項5号)。
実務上、募集株式の発行は、株式会社と特定の者との間で、総数引受契約を締結して行うことが一般的です。総数引受契約にて手続を進めることで、募集株式の申込み・割当ての手続を省略することができるためです(法205条1項)。
そして、株式会社が総数引受契約を締結する場合、取締役会非設置会社では、株主総会の特別決議による承認が必要となります(法205条2項)。
以上をまとめると、普通株式のみを発行している非公開会社(取締役会非設置会社)が新たにA種優先株式を発行するために必要な手続は次のとおりです。
・A種優先株式の内容及び発行可能種類株式総数を定める定款変更(株主総会特別決議)
・A種優先株式の募集事項の決定(株主総会特別決議)
・総数引受契約の承認(株主総会特別決議)
なお、実務上は、上記の総会決議を同一の株主総会にて決議することが多いです(実際には、書面決議にて手続が進むことも少なくありません。)。
事例2
事例1の会社が、普通株式・A種種類株式に加えて、これらの株式よりも配当と残余財産分配で優先する種類株式(B種種類株式)を発行(第三者割当て)するために必要な手続きを整理してください。
事例1を経て、当該会社は種類株式発行会社となっていますので、事例1でみた手続に加えて、種類株主総会の要否(法322条1項)を検討する必要があります。
法322条1項は、種類株式発行会社が一定の行為(同項に列挙する行為)をする場合に、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときには、種類株主総会の決議がなければ、当該行為は効力を生じないと定めています。
当該決議は、種類株主総会の特別決議をもって行います(法324条2項4号)。
法322条1項の要件と効果を整理すると以下のとおりです。
〈要件〉
① 株式会社が法322条1項各号に該当する行為をすること
② 当該行為が、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき
〈効果〉
種類株主総会決議が必要となり、当該決議を欠いた場合、当該行為は効力を生じない
【要件】②の「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」については、法322条1項各号の行為により、既存の種類株主が(a)経済的利益(b)会社支配的利益の点で不利益を受けるか、という検討をすることになります。
種類株主総会が必要であったにもかかわらず、種類株主総会を経なかった場合には、「当該行為は効力を生じない」との強力な効果を生じることになります。そのため、実務上は、判断が分かれるような事例の場合、保守的に、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」を広くとらえて、念の為、種類株主総会決議を行うケースが多いように思われます。
なお、法322条1項の種類株主総会の決議は、定款の定めにより排除することができますが(同条2項)、同条1項1号に規定する定款変更については排除することができません(同条3項但書)。
そのため、新たに種類株式を追加する場合には、同条の種類株主総会の決議の要否を、定款の定め方を問わず、検討する必要があることになります。
事例2では、B種種類株式の内容を追加するため、「株式の種類の追加」(法322条1項1号イ)に該当します。
また、B種種類株式は、普通株式・A種種類株式に配当・残余財産分配で優先するため、これらの株式の経済的利益が損なわれることになります。
そのため、事例2では、普通株主に係る種類株主総会及びA種種類株主に係る種類株主総会の決議が必要となります。
事例1で説明した手続も含めると、この会社で、B種種類株式を発行するために必要な手続は以下のとおりです。
① B種優先株式の内容及び発行可能種類株式総数を定める定款変更(株主総会特別決議)
② ②の定款変更に関して、普通株主に係る種類株主総会の決議、および、A種種類株主に係る種類株主総会の決議
③ B種優先株式の募集事項の決定(株主総会特別決議)
④ 総数引受契約の承認(株主総会特別決議)