【中小企業経営者向け】天ぷらによる転倒事故にみる店舗管理に関する覚書

本訴訟の概要

時事通信は、スーパー店舗内で床に落ちていた天ぷらを踏んで、転倒、怪我をした利用客による損害賠償請求訴訟について、東京高裁が令和3年8月4日、請求を認めた第一審判決を取り消して請求を棄却したと報じました。

天ぷらで転倒の客、逆転敗訴 スーパーのサミット―東京高裁:時事ドットコム (jiji.com)

第一審判決は以下のURLにて公表されています。

089999_hanrei.pdf (courts.go.jp)

第一審判決は、以下のような判断枠組みを示して、スーパーの責任を認めました。

「本件店舗を運営する被告としては,利用客に対する信義則に基づく安全管理上の義務として,本件事故発生時のように,本件店舗が混み合い,相当数の利用客がレジ前通路を歩行することが予想される時間帯については,被告の従業員によるレジ周辺の安全確認を強化,徹底して,レジ前通路の床面に物が落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていたというべき」

報道によると、高裁判決は、天ぷらを落としたのが従業員ではなく、スーパーの利用客であることや、天ぷらが比較的大きかったこと等に照らしてスーパー側の責任を否定したようです。

本判例が店舗管理に与える示唆

中小企業が経営する店舗においても、店舗で利用客が転倒し、負傷した場合には、利用客が損害倍書請求訴訟を提起する、訴訟前に損害賠償の交渉をしてくるといった事態は想定されるところです。

弁護士費用等がかかる上に、訴訟対応は中小企業の経営者や実務担当者に大きな負担を課すものであることは否定できません(この点、本件の訴訟は住友商事の子会社が被告になったケースであり、訴訟が企業運営に与える負担という意味では、中小企業が被告になるケースよりは軽かったと言えるかもしれません。)。また、利用客の負傷の程度が大きく、店舗の責任が認められた場合には、多額の損害賠償責任を負うことになりかねません。

例えば、別件でスーパー内のレタスの水が原因で転倒、負傷した利用客による損害賠償請求がなされ、東京地裁は店舗側に対して、約2180万円の支払いを命じた事案があります(レタスの水で客転倒 スーパーに2180万円賠償命令―東京地裁:時事ドットコム (jiji.com))。

さらに、商店街で店舗を運営しているケースのように地域との関係が密な場合や、利用客が主に地域住民であるといった場合には、利用客が負傷する事故が起こったことが口コミ等で広まり、利用客の足が遠のき、売上減少につながり経営を圧迫するという可能性もあり得るところです。

そのため、本件では店舗側の責任が否定されたところではありますが、店舗管理のベストプラクティスとして、一定時間ごと、あるいは、特に店舗内の混雑が予想される時間帯においては、店舗の床等に落下物がないか、床が滑りやすい状態になっていないかといった事項を確認することが望まれるといえます。

また、上記のような業務プロセスを業務マニュアルに加えるとともに、従業員に何故このプロセスが必要なのかを説明し理解を求め、可能な限り、店舗事故の発生防止に努めることが望まれます。

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