概要
いずれも、前項の規定に関して情報を追加するときに用います。
ただし、用法を正確に理解していないと、条文の意味内容の理解や、契約条項の正確なドラフトに支障をきたす可能性があるので注意が必要です。
「前項の場合」の用法
「前項の場合」は、前項の全部を受け、前項全体に情報を追加するときに用います。
1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
民法258条
民法258条2項は、共有物の分割について共有者間の協議が調わず、共有者が分割を裁判所に請求した場合を指して、「前項の場合」としています。
協議が調わず、共有者が分割を裁判所に請求→一定の要件を満たす場合に裁判所が競売を命ずることができる、という建付けになっています。
すなわち、「共有物の分割について共有者間の協議が調わないとき」を指して、「前項の場合」としており、協議が調わないときに、一定の要件を満たせば裁判所がいきなり競売を命ずることができる、というわけではありません(感覚的に本条に関してこのように誤読するケースは少ないかと思いますが、「感覚的」に条文や契約条項を検討することには危険が伴います。)。
「前項に規定する場合」の用法
「前項に規定する場合」は、前項の一部(「…の場合」「…のとき」といった仮定的条件)を受け、当該仮定的条件について、情報を追加するものです。
1 代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役(次項の一時代表取締役の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有する。
2 前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができる。
会社法351条
会社法351条2項の「前項に規定する場合」とは、「代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合」を指しています。
「代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合」において、利害関係人の申立てがなされ、裁判所が必要があると認めたときに一時代表取締役を選任するという建付けになっています。
補足
以上の説明は、「前条」「前号」「第●条」といった場合にも同様にあてはまります。
参考文献
吉田利宏『新法令用語の常識』(2014、日本評論社)79頁以下
法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務 第2版』(2018、ぎょうせい)758頁以下
石毛正純『法制執務詳解〔新版Ⅲ〕』(2020、ぎょうせい)616頁以下